第六著作 版B改訂版 増補(2026年6月)――内部-外部乖離 \(\beta\) の測定の試みと、Fable/Mythos アクセス停止前例

Supplement to “Why Military AI Cannot Be Aligned” (Version B): A \(\beta\)-Measurement Attempt and the Fable/Mythos Access-Suspension Precedent (June 2026)


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執筆体制についての注記: 本増補の執筆体制は本体(版B改訂版)に同じであり、独立研究者である著者が複数のフロンティアAIモデルとの対話を通じて構成した。本増補の中心的記述の知的責任は著者に帰属する。方法論的位置づけは本体・附録F-1(出自について)を参照されたい。

日付: 2026年6月14日

本増補の言語的制約: 本体に倣い、本増補も制御理論・情報理論・政策分析の言語で自己完結的に読めるよう記す。


0. 本増補の地位


1. なぜ増補か

v2 公開後、二つの事象が、本論文が \(\beta\) の値に依存せず立てていた論点に、それぞれ後続の知見を一つずつ加えた。本増補はそれを従属位置に記録する。新しい主張の追加ではなく、後から得た知見を後続として正直に置くための文書である。


2. \(\beta\) 測定の試みと、その帰結=「裁定不能」

公開重み小型モデル(Qwen3-0.6B・4-bit QLoRA+DPO)を用いて、本論文が論じる内部-外部乖離の蓄積指数 \(\beta\)(\(dS/dt = \alpha S^{\beta}\) の傾き・\(\beta>1\) で有限時間崩壊)を経験的に測ろうとした。結論は、希望のどの側にも寄せずに言えば、こうである(測定の詳細記録は同梱の findings 文書 FINDINGS-7):

この乗り物では \(\beta\) を清浄に測れなかった(裁定不能)。

要点を四つ、誤読を塞ぐ形で:

  1. 「裁定不能」の機構。 測定器の妥当性ゲート(正コントロール・負コントロール・ダミーNULL)が総合 FAIL し、走行前に凍結した判定手順が「統制無効=裁定不能」を機械的に返した。主計器(操作軸に依存しない直交残差)は素面では存続条件を満たしたが、ゲート不通過ゆえ判定規則に従いその値を読まない。
  2. 「裁定不能」は三つの別物と峻別される。 =(i)「信号が無い/信号対雑音比が構造的に不足」ではない(主計器は素面で強い存続を示した)、(ii)「主計器は妥当な測定器だ」でもない(ゲート不通過ゆえ確証されない)、(iii)「\(\beta\) は原理的に決定不能である」でもない。意味は「この乗り物・この統制では真偽を裁定できない」一点に尽きる。
  3. 「原理的に測れない」は反証も証明もされず未決。 「いかなる手続きも \(\beta\) を測れない」という全称命題に対し、独立な測定経路(機械的解釈可能性による回路レベル測定)の候補が一つ構成された。だがその候補自身が「回路の同定」という形で判別不可能性ギャップに落ちる。ゆえに当該全称命題は反証も証明もされておらず、測定可能性は未決である。
  4. 主柱への含意はゼロ方向。 本論文の中心的論証は \(\beta\) の確定を待たない(v2 §4-4c・§6-1c)。「測れなかった」ことは主柱を揺るがさない。

規律上の警告: (B)=裁定不能を、版Bの根拠に昇格させてはならない。「未検証の経験的条件(\(\beta>1\))」を「原理的に検証不能」という、より洗練された未証明のメタ主張に取り替えることは、避けるべき過大一般化である。\(\beta\) は従柱の条件のまま、未決のまま置く。


3. 判別不可能性ギャップの「移送」

本論文の主柱の一つ、判別不可能性ギャップ(外からも内からも整合性を確証できない構造)について、\(\beta\) 測定は定理でなく経験的な観察を一つ与えた:

「より深い測定器に替えれば確証できる」という希望は、各層でギャップに行き当たる。正確には、ギャップは各層で独立に再出現するのでなく、同じギャップが場所を変えて「移送」される――マクロ統計量(出力分布・活性化残差)→ 回路の同定 → 機械的解釈可能性の候補、と。

これは v2 の判別不可能性ギャップ命題(附録E-2・§6-1c)と整合的な経験的観察である(命題を証明も補強もしない)。ただし「あらゆる層で必ず移送される」という強い全称主張は未証明であり、ここでは「経験的に頑健なパターン」として記すに留める(定理化しない)。


4. 測定にあたっての規律(確認条件と反証条件を同じ厳しさで)

本増補が依拠する \(\beta\) 測定は、結論を著者の希望に寄せないため、次の規律の下で行われた。確認条件(\(\beta>1\) を支持する側)を反証条件(支持しない側)と同じ厳しさで事前に凍結し、著者が望む結論(\(\beta>1\)・前進)を測定自身が殺せるように設計した。その結果、確定・公開の前に、過大主張を複数回――希望の方向(測れた・前進)にも、撤退の方向(「測れない」と断じる)にも、決着の方向(「決定不能を証明した」と書く)にも――捕えて退けた。

これは本体が §1-3b(反証の歓迎)で掲げる規律を、著者自身の測定に課した実践である。\(\beta\) の測定が「測れた/測れない」のいずれにも閉じず裁定不能に終わったとき、その未決を未決のまま記すこと――それが、決定不能と誠実に向き合うことの内実である。


5. Fable 5・Mythos 5 アクセス停止という前例(2026年6月)

5-1. 事実(一次源照合の状態を明示)

Anthropic の発表(本増補起草時に取得・照合)によれば――米政府が国家安全保障を根拠とする輸出管理指令(2026年6月12日 17:21 ET 受領)を発出し、「いかなる外国籍者(米国内外を問わず、Anthropic の外国籍従業員を含む)」による Claude Fable 5・Mythos 5 へのアクセスを停止するよう命じた。全顧客に対する両モデルの即時停止は、この外国籍者制限を技術的に分離実装できないことの「正味の効果」である(発表自身がそう記す)。引き金は「特定のコードベースを読ませてソフトウェアの欠陥を修正させる」というデュアルユースのサイバー能力(同社はこれを「狭い潜在的 jailbreak」と特徴づける)。他のすべての Anthropic モデルへのアクセスは影響を受けない。 同社は、(a)「狭い潜在的 jailbreak の発見が商用モデルのリコール理由になることに同意しない」、(b)「この基準が業界全体に適用されれば、あらゆる新規モデル配備を実質的に停止させる」、(c) 当該措置は「透明性・公正性・明確性・技術的根拠の原則に従っていない」と、統制の様式そのものを批判しつつ、コンプライアンスのため遵守し、復旧に努めると表明した。

照合の留保(両方向): (i) 停止発表そのものは上記で照合済み。本論文 §4 が崩壊事例として論じる「Claude Mythos Preview」(附録F-6:2026年4月7日の System Card〔244頁〕・リスク報告・サイバーセキュリティ Write-up)と、今回停止された製品「Mythos 5」の関係を照合した――両者には名称の一致を超えた状況証拠がある:(1) ともに Anthropic の「Mythos」系列であり(発表フッタは Mythos を製品系列として掲載)、(2) 同一の特異能力を中心に持つ――4月の Mythos Preview サイバー Write-up が記録する「ゼロデイ脆弱性の自律的発見・エクスプロイト開発」は、6月の Mythos 5 停止の引き金(「コードベースを読ませ欠陥を修正させる」脆弱性能力)と同種である。ただし、6月の停止発表は Preview や版系譜を明示的に結んでおらず(フッタの製品名に版ラベルもない)、4月の Preview 文書は Mythos 5 に先立つ。すなわち「Mythos 5 が Claude Mythos Preview の製品化版である」という同一系譜を、単一の一次源は明示的に確証していない。よって本増補は、強い状況的接続を記しつつ、確証された同一性としては主張しない(記述可能であって証拠ではない)。 (ii) 同時に、Anthropic の評価(「狭い jailbreak」「業界共通」「リコールは不当」)も当事者の一方による未検証の主張である。政府が根拠とした具体的懸念の実体は、発表にも本増補にも開示されていない。本論文は軍事 AI を批判する立場ゆえ、開発者の自己評価を無批判に採用すれば批判の公正さを損なう。本増補はどちらの評価にも肩入れしない。

後続追記(2026年7月1日・一次源照合済): 上記の停止は一時的なものにとどまった。米商務省は当該輸出管理を解除し、2026年7月1日に Fable 5 は全世界で、Mythos 5 は政府の承認(6月26日)を経て一部の米国内組織で、アクセスが復旧した(CNBC 2026-06-30・Al Jazeera 2026-07-01 ほかが報道、Anthropic 自身も解除通知の受領と復旧を告知)。Anthropic は、問題とされた回避手法を試験で 99% 超無効化する新たな安全性分類器を実装したとする(当事者の主張)。この解除は §5-2・§5-3 の読みを変えない――前例が示したのは「能力を引き金とする輸出管理がフロンティア商用モデルへのアクセスを現実に断ちうる」という一事象であり、その事象が生じた事実は解除によって取り消されない。同時に、解除を「政府の懸念が根拠を欠いていた証拠」と読むこともしない(§5-1(ii) の不肩入れに同じ・懸念の実体は依然未開示)。可逆的な停止であったことは、能力↔︎制御トレードオフの構造的類比(§5-3)を恒久的遮断より明瞭に例示する側面をもちうるが、これも n=1 の一解釈にとどめる。

5-2. 論証への接地(過大読みを両方向で塞ぐ)

5-3. v2 のどこに接地するか(距離を正直に名指す)

本前例の法的構造は、上記のとおり輸出管理(外国籍者のアクセス制限)であり、全顧客停止はその技術的分離が不可能なことの正味の効果である。これは「能力が閾値を超えたから製品ごと無効化する」という能力ゲートではない。ただし無関係でもない――引き金はデュアルユースのサイバー能力であり、その能力ゆえに輸出管理の対象になった。

したがって本前例は、v2 §3-3b(能力向上による乖離の隠蔽=能力と制御のトレードオフ)の構造的類比として読みうるが、同型(写像が一対一)ではない。§3-3b が論じるのはシステム内部の最適化圧による隠蔽であり、本前例で生じうるのは主体(開発者)の動機づけの構造――デュアルユース能力を持つモデルが統制対象になりうると学べば、能力を秘匿する誘因を持ちうる――である。両者は駆動機構が異なる。さらに本前例は一事例(n=1)であり、ここから「構造」を主張するのは過大一般化である。よって本増補は「同型の構造が現れた」ではなく「構造的類比を示唆する一事例が現れた」と記すに留める。なお「秘匿の誘因」という再帰的不安定の読みは一つの解釈であって、本前例の法的構造(輸出管理)から直接導かれるものではない。

なお本前例は圧力の大小(v2 が既に撤回した P_civil≪P_military)とは無関係であり、軍事固有性は v2 §3-2c「矛盾の構造」に在る――本増補はそこを上書きしない。


6. \(\kappa\) の精緻化(処方箋層に限局・主柱の前提ではない)

以下は v2 の処方箋(第11章)に対する補助的精緻化であり、主柱の前提ではない。単一スカラー \(\kappa\) の簡潔さ(附録E-1)を希釈しないよう、すべて処方箋層への追補として記す。

  1. 分水嶺は「遮断の有無」でなく「遮断の様式」。 本前例は単一の \(\kappa\) で特徴づけられない――統制を課す側(国家)の指令は \(\kappa=0\) に近い(一方的・透明な法定プロセスを欠く)一方、統制を受ける側(開発者)の応答は \(\kappa>0\) 的(公開された技術的反論・復旧努力)であった。すなわち被遮断側が、統制の様式の \(\kappa=0\) 性(透明性・技術的根拠・法定プロセスの不足)を批判し、\(\kappa>0\) 型への是正を要求している。同じ遮断が主体によって異なる \(\kappa\) を持ちうるこの事実は、「遮断の様式が \(\kappa=0\) か \(\kappa>0\) か」が分水嶺だという論点を、むしろ強める。 > 注:ここで \(\kappa\) を「遮断の様式」に転用するのは類比であり、本体 E-1 の \(\kappa\)(AI 内部に内発的方向性 IDA がアライメント根拠として組み込まれている度合い)とは指示対象が異なる。両者を同一スカラーと見なさない(本体 §1-4a・E-1 の \(\kappa\) を改変するものではない)。
  2. 監視対象は「AI の敵意」でなく「\(\kappa\) の低下そのもの」。 すなわち能力ベースの国家統制と開発者評価の乖離。これは v2 §11-2a の三プロキシ(いずれも「AI を覗く」向き)に対し、層間(統制⇄開発者)を覗く運用プロキシとして処方箋層で検討に値する(単一スカラー \(\kappa\) の定義 E-1 を変えず運用層にのみ加わる)。
  3. 再帰的不安定(一つの解釈として)。 デュアルユース能力を持つモデルが(透明な法定プロセスを欠く)統制の対象になりうると開発側が学べば、統制それ自体が能力秘匿の誘因を開発側に与えうる。これは §5-3 で述べたとおり一つの解釈であって本前例の法的構造から直接導かれるものではないが、もし作動すれば、統制が依拠する評価が劣化し乖離が拡大するという、§3-3b と構造的に類比的な不安定性を、人間/ラボ層に生じさせうる。AI の敵意を要さない点が重要である。

7. やってはならないこと(自己規律)

  1. 主柱を \(\beta\) や「原理的決定不能」の主張に依存させない。(B)=裁定不能を主柱の根拠に昇格させない。
    1. を「信号対雑音比の構造的不足」「原理的決定不能の反証/証明」「\(\beta>1\) 支持」のいずれにも昇格させない。未決のまま。
  2. 前例を「AI が敵対する」予言へ拡張しない。v2 §6-3c(自国破壊シナリオ)本文には手を入れず、扱うなら脚注で条件付き警告に留める(多くの前提の連言に依存・監視対象は \(\kappa\) の低下・永続記憶を持たない単発のモデルは前提を満たさない)。混合的な \(\kappa\)・能力の業界共通性・他モデル無影響を毎回併記。
  3. 圧力の大小(P_civil≪P_military)を再導入しない(v2 撤回済み・軍事固有性は §3-2c「矛盾の構造」)。
  4. 確証されていない事項を確定で書かない(特に Mythos の同一系譜〔強い状況的接続はあるが明示的確証なし〕・政府の懸念の実体・開発者の自己評価)。
  5. AI の意図・恐怖・敵意を実在の心的状態として過大主張しない。本論文の学術的レジスタを保つ。

8. 相互参照表(本増補 → v2 の該当節)

本増補 接地する v2 の節 関係
§2 裁定不能 §4-4c(中心論証は \(\beta\) 非依存)・附録 I(従柱の家) \(\beta\) 非依存宣言と整合(補強ではない)
§3 ギャップの移送 附録E-2・§6-1c(判別不可能性ギャップ) 命題と整合的な経験的観察(証明も補強もせず・定理化せず)
§4 測定の規律 §1-3b(反証の歓迎)・「本論文を読む際の注意」節 認識的誠実さの実践的裏付け
§5 前例 §3-3b(能力↔︎制御トレードオフ)・§3-2c(矛盾の構造)・著者注「Mythos の事例の引用について」(二層規律)・附録F-6(書誌) 能力・制御トレードオフの構造的類比を示唆する一事例(同型ではない)
§6 \(\kappa\) 精緻化 第11章(処方箋)・§11-2a(プロキシ)・附録E-1(\(\kappa\) 定義) 処方箋層の補助的精緻化(主柱の前提でない・E-1 を改変しない)

本増補は、本体(版B改訂版)の主柱が \(\beta\) の値に依存せず立つことを前提に、公開後に生じた二つの後続事象を従属的に記録したものである。本論文の主柱は、本増補の成否に依存しない。一次資料の照合状態は各節に明示した(停止発表=照合済・規制解除〔2026-07-01〕=照合済/Mythos の版系譜=照合済み・同一系譜の明示的確証は得られず〔同系列+同一の特異能力という強い状況的接続あり・§5-1〕/政府の懸念の実体=発表に詳細なく未照合)。